旅の長句 756首
旅すれば 歌は広がり 限りなく 旅こそわが身 住処なるかな(以降二・三十代作)
旅すれば 思わぬことに めぐり遭い 未知なる世界 旅の良さかな
旅すれば 懐かしき友 また会える また会う絆 また会う命
旅すれば 早く家路に 帰りたき 家に籠れば また旅恋し
旅すれば 人の情けが 身にしみる 与論献奉 北海盆歌
旅に出て 友と飲む酒 楽しさも 過ぎてしまえば また淋しかり
旅に出て 知る人多し 旅を終え 忘れ得ぬ人 その場限りで
旅に立つ 心は浮いて 寒の明け 暑さ寒さも 気心の内
旅に生き 歌に思いを 残すなら 明日に死すとも 悔いは残らじ
旅を終え 帰る家路は まだ遠く 見上げる空に 飛び立つ鳥も
旅をする 心をいつも 抱きつつ 筆に慰さむ 時ぞ淋しき
旅の路 恥じかき汗かき 歩く道 空しく立ちて 満ちて帰りぬ
旅ありて また我れありて 人もあり 四季のめぐりに 未知との出会い
旅先で 愛する人への お土産を 手に取って見る 迷いも楽し
旅立ちの 別れを交わす 笑顔には 切なきものが 心を責める
旅人は リズムをくずし 道を逸れ それぞれ違う 道に目覚めん
旅人の 心気ままな 優しさに 惚れる勿れよ かの早乙女よ
旅人と 我も呼ばれん 蝉しぐれ 古刹巡礼 出羽の山寺
山裾は 辺り一面 花霞 吉野の山に 春は来にけり
山桜 はな花ハナの 吉野山 こんな桜が 世にはあるかな
山村に 誰ひとり乗る 客のない バスに揺られて 淋しさ募る
山里に 江戸より続く 茅の宿 恋し焦がれる 湯舟沢かな(湯舟沢温泉)
山寺や 芭蕉の名句 そらんじて 夏の盛りの 伽藍をめぐる(立石寺)
山囲み 夢窓ろみたる 天女洞 萩の花咲き 今だ蝉鳴く(瑞泉寺)
山を背に 庭木の姿 それぞれに よく刈り込みて 優雅で巧み(竜華寺)
山あいの 枯葉の上に 座りけり 五百羅漢は 夢見るように(石峰寺)
山門の 柱にもたれ 顧みる 今日訪れた あの寺や道(南禅寺)
ふるさとは 遠くにありて 憧れる 山懐かしく 友また恋し
ふるさとは 遠く離れて 懐かしく 近付くほどに 消えるふるさと
ふるさとに ふと帰りたき 思いなる 上野の駅を 独り歩けば
ふるさとに 住まばならない 身となりて 旅人中断 職探しする
ふるさとの 母港に帰る 心地する 大航海に 挫折せし折
ふるさとで 我れを知る人 有難き 忘れ得ぬ人 悪口言わず
空ならず 生き続けんと 思う時 美観を求め 旅に身を置く
空なるも 人のえにしか 世の流れ 吉野の花は 法師の心(西行庵)
空に舞う 天女を見たり 阿弥陀堂 栄誉栄華の 極楽浄土(平等院)
空青く 秋風吹きて 虎渓山 一人眺める 日曜の旅(退耕庵)
空高く 飛んでいるよな 心地する 高野龍神 山の架け橋
空腹に 粗食もうまし 旅にあら 風雅の心 美味と悟れり
人がみな 愛を求めて 止まぬ時 我れは自由で 気ままな旅を
人がみな 個性を備え ある如く 仏像もまた 千体違う(三十三間堂)
人と人 行き交う時も 旅となる 心の旅の 一つと思う
人の世の 真言求め 旅行けば 無常の風は ただ欲の中
人生で これぞと思う 旅をして 芭蕉の風雅 昭和の世にも
人生に ふと目覚めれば 生きている 花よ花よと 旅に焦がれる
秋の空 廃れるままの 大悲閣 悲しく淀む 保津川の水(千光寺)
秋の夜 君が黒髪 抱き寄せて 思いは実る 旅の安らぎ
秋暮れて 今だ紅葉は 散りもせぬ 飛鳥の里の いにしえの路(岡寺)
秋長けて 錦の景色 十和田湖に 目に焼き付けて 脳裏に刻む
秋保にて ホテル佐勘に 投宿す 三万円の 滝見となりて(秋保温泉)
秋田には 有人島が 無いために 庄内の島 羨ましきや(飛島)
淋しさを 背負子に詰めて 旅に立つ 崩れし夢を 再び望み
淋しさも 深まりゆくと あるがまま 風の吹くまま 旅重ね行く
淋しさは 女心の 早変わり 自灯明での 旅を愛する
淋しさは 旅のつれづれ 世の情け 涙を拭い 別れを惜しむ
振り向けば 一期一会の 出会いあり 仰ぎて見れば 旅の一路が
振り向けば 生かされて来て 旅をして 旅に果てるが 命と思う
振り向けば 雨や濃霧の 只中を 駆け巡りたり 今日の一日
振り向けば 子供心に 夢見てた 模型を作り 部屋を飾りて(法隆寺夢殿)
振り返り 眺めてみても 旅の道 古きを訪ね 今年も独り
何処となく 窓に悲哀を 漂わせ 夜汽車に映る 少女もありき
何処となく いつか訪ねた 思いして 親しみやすき 大原の里
何処となく 信濃の高原 思わせる 糺の森の せせらぎの音(下鴨神社)
何処となく 過去に訪ねた 思いして 忘れられない いかるがの里(法輪寺)
何処に居る 友の旅路の 果てしなさ 生きているのか 死んでいるのか
吉野山 この世の春の 思い出に 一見せんと また旅立てる
吉野山 千本桜 夢に見て みちのく遠く 汽車を乗り継ぐ
吉野山 桜の花の 下に寝て 恋人いれば 両手に花で
吉野山 桜の花に 見惚れては 花の散るまで 留まりたくも
世の中が 如何に変れど 風は吹く 吹かれるままに また旅をせん
世の中の 中間層に 肩並べ 新橋寄りの 銀座に通う
世を渡る 渡しの船に 乗り遅れ 迷いながらも 今日も旅ゆく
世を捨てて 眺むる景色の 奥深さ 江上の月 一輪の花(浮御堂)
名を残し 金を残すも 叶わずに 死出の旅路の 旅支度せん
名に聞きし 六道珍皇寺 門前に がっくりしては 内覧をせず
名に高し 禅寺ありと 山を越え 険しき道を たどり着きたり(臨済寺)
名湯の 誉れも高き 四万の湯は 平安初期の 開湯と聞く(四万温泉)
夜桜を 眺め過ぎたか 中千本 宿の扉は 固く閉ざされ
夜桜を 眺めて知るは 花の宴 酒も飲まずに 帰るもどかしさ(高遠城跡)
夜も更けて 祭り囃子は 止みもせず 山車ぶっつけの 掛け声聞こゆ(角館)
夜明けより 大和三山 駆け登り 三日月遠く 明日香に消ゆる
気が付けば 我れも旅人 定めなく 雲ゆく如く 独りさすらう
気が付けば 諸行無常の 世にありて 遊び心の 旅ぞ尊き
気が付けば 人間として 旅をして 人間として 死ぬもどかしさ
地図広げ 机上の旅も 楽しかり まだ見ん国の 草木の香り
地図を見て 膨らむ胸や 紙風船 まだ見ぬ空の そよ風に舞う
地図もなく さまよう街は 黒ずんで 昼の盛りに 街灯点る
東京の 北の玄関 上野駅 汽車を待つ間の ふるさと遠し
東京で ふるさとを見る 丸ノ内 ビルの谷間の コスモスの花
東京は 大名庭園 数多あり 四季折々を 訪ねゆくなり(浜離宮恩賜庭園)
月明かり 今宵の旅の 友として 眺める桜 麗しくあり
月明かり 今宵の旅の 道連れに ハンドル軽く 越える山並み(高野龍神スカイライン)
月の輪の 山一面が 墳墓なり 菊の御寺に 衛視行き交う(涌泉寺)
何となく 不安を胸に 船出する 家を出ること 大人になること
何のため 生まれて来たか 問うたびに 空しくなりて 旅を夢見る
何よりも 朝風呂が好き さとみの湯 秋田名酒に 朝寝をすれば(秋田温泉さとみ)
夢に見ん 未だ見ぬ甍 歌枕 明日に尽きる 命なのしも
夢心地 この世に生きて 何度なく 味わうものか スイスの旅路
夢想する 熊野の山の 清らかさ 自然が神と 思うこの頃(熊野山)
千年の 形見は今日に 残れども 大宮人は ハンバーガー食う
千年を 一眼のうち 遡る 時代祭りの 秋の浅草
千本の 大根食べる 初夢を 祇園の宿で 見たか見ないか(大報恩寺)
一夜寝て 敦賀の駅に 降りて立つ 寝台列車 日本海かな
一年の 長き旅路を 振り向けば 脳裏に浮かぶ 日本の美景
一段と 蝉高らかに 鳴き競う 清水山の 清閑寺道(清閑寺)
目覚めれば 旅する如く 人生に 生まれて来たり ふるさとを発つ
目閉じて 思い起こすは 寺の塔 当時のままに 有るか無いかと(東寺)
目に見えず 音に聞こえる 滝の音 桂春院の 森の趣(妙心寺
雪深き 白樺の道 踏み行けば 琵琶池眠る 新雪の中
雪が舞い ケヤキ並木に 花が咲く 光りの華の 艶やかさかな(光りのページェント)
雪とけて 流れる水の 清らかさ ならの小川の 朝の輝き(上賀茂神社)
北上の 夜が恋しき その灯り 消えぬうちにと 心ときめく
北上の ホテルの窓に 目をやれば 寝台列車 北に流れる
瀬見の湯に 末路を知るも 哀れなり 湯に安らぐ 義経一行(瀬見温泉)
瀬見の湯の 観松館の 貴賓室 泊ることなど 夢のまた夢
みちのくの 北上川の 夕月夜 西行法師の 影また踏まん
みちのくの 杜の都に 広瀬川 水清らかに 蛇行を重ね
霊山は 円仁大師 開山で 山寺よりも スケール広く(福島霊山)
霊山は 人の住まわぬ 山となり 昔を偲ぶ ウグイスの声
大原の 三千院は 隠れ寺 杉の古木に 苔のじゅうたん
大原の 茅葺き屋根と 柿の木は 秋のふるさと 思わせるかな
長谷寺や まだ見ぬ花に 気を馳せて 鈴を響かせ 渡る初瀬川
長谷寺や 七堂伽藍 登廊下 七千株の 牡丹花咲き
当麻寺は 奈良南西の 古刹なり 七堂伽藍 春風は吹く
当麻寺は ポツンと離れ 奥ゆかし 七堂伽藍 花盛りなり
安らかに 摩文仁の岡に 永眠す 罪なき死にし 故郷の兵
安らかに 眠れる所 定めずに 野原に閉ざす 旅の生涯
ありがたき 心に触れし 住職と 堂に上りて 仏像拝む(鉄舟寺)
ありがたさ ただただ胸に あふれ来て 願うことなし 熊野詣では(熊野那智大社)
予期もせぬ 桜にペダル 止まりけり 上越高田 花を見るとは(高田城)
予期もせぬ 旅路の中に 美しく とある飯屋の 娘なりしか(石山寺)
ありふれた 暮らしに醒めて ただ一人 山野をめぐる わが姿かな
ありふれた 飛鳥の里の 竹藪に 歴史は埋もれ 史実が眠る(高松塚古墳)
武蔵野を 偲び思いつ 旅をする 昔の人と 今日の人とを(平林寺)
武蔵野の 森の面影 野火止の 平林禅寺 ポツンと残り
眠られぬ 夜もありけり 野宿して ハブの気配に 身構えし時
眠られず ひたすら朝の 来るを待つ 旅立つ前の 胸のときめき
姫神や 黄橙紅に 葉は染まり 雄物川には 虹が架かれり(大平山)
姫神は 無垢の衣 纏えども 添え遂げられぬ 岩手山とは(姫神山)
柴又は ミニ浅草の イメージで 下町情緒 浅草凌ぐ
柴又の 土手の緑に 渡し舟 寅さんの顔 脳裏を過る
庭を飛ぶ 関西弁の さえずりに 帝釈天も 耳に手をやる(柴又帝釈天)
庭にのみ その美しさ 残りゆく 輝くものの 消ゆる姿と(銀閣寺)
富士山を 借景として 横たわる 天女降臨 三保の松原
富士の山 終日眺め 夢うつつ 潮風香る 春の松原
友を捨て ふるさと捨てて 船乗りに 月に浮かれて 海に癒され
友と行く 鈍行列車の 長き旅 可愛い娘でも 座って欲しい
嵯峨野では 行きつ戻りつ 躊躇する 予備知識なき 小さな寺に(直指庵)
嵯峨野路を こよなく愛す 人にこそ 味わい分かる 散策の旅(大覚寺)
平和への 願いを込めて 手を合わす 自由なき日の 乙女らの前(姫百合之塔)
平和には 犠牲になりし 人々の 血潮の流れ 忘れ得ぬかな
去り行かば 後日に愁い 結ばずに 靴ひも結び 静かに立たん
去る者は 一夜の隔て 千里なり 追う術もなく 一人旅行く
遠くのみ 旅することを 考えて 何故知らなんだ ふるさとの山
遠く来て 再び北へ 帰る雁 旅立つ雁に 名残りは尽きず
金と暇 あってはこその 秘湯なり 霞んだままの 滝見の湯船(大平温泉滝見屋)
金なれりゃ 君を愛しむ 心なし ときめく胸の 秋のドライブ
街灯り 遠く眺める 歳となり 真実一路 再び旅に
街の灯が 消えぬ間には 帰りたき わが思い出の 北上の街
死んで行く 先は何とも 分からねど 生きる楽しさ 知る旅路かな
死を見つめ 命を見つめ 旅すれば 詩歌と写真 思い出せん
知らぬ国 知らぬ言葉に 知らぬ味 仕方ないかな 笑い旅ゆく
知らぬこと この世の中に 数多あり しみじみと知る 旅に暮らせば
寝袋に 身を包み入れ 野宿する 芝生の上に きらめく星座
寝なければ ならんと言えど 眠られぬ 旅立つ前夜 胸高まりて
今日もまた 心の旅を 繰り返す 愛する人や 恋しき山河
今年こそ 秘境の景色 訪ねんと 向う旅路に 雪は降りけり
桜より ひと人ヒトの 吉野山 門より先は 止まるもならず
桜のみ 楽しむ後に 身はしまる 役行者の 険しき顔見
咲く花や 霞の果てに 夕月夜 奈良の都の 春は狭まり
咲く桜 真言浄土の 垣根越え 枝木を伸ばす 当麻寺かな
歌詠めば 絶えず思うは 旅の空 未知との出会い 過去への回帰
歌会に 涼しさ抜ける 瑞泉寺 孤笠独歩の 詠み人知らず
城跡に 立ちて偲ぶや 鷹山の 誉れぞ高き その志(米沢城跡)
城の跡 わずかに見えし 石垣に 松の緑に 栄枯を偲ぶ(駿府城跡)
湯野浜の 夕日を眺め 湯に浸かる 西方浄土 この湯に尽きん(湯野浜温泉)
湯巡りは 大文字屋に 尽きるかな 七ヶ所もある 湯船思うと(赤湯温泉)
ああ旅よ 女も酒も 旅の中 日々に移ろい そこに俺が居る
ああ寂し 名所の旅を 重ねれど 人を尋ねる 旅に我れなし
十五から 読書と登山 趣味として 一所不住の 旅果てしなく
寅さんが 時代の先に ある日なし 古き時代を 訪ねて旅す
羨まし 同じ旅する 寅さんが 五十も恋を 重ねんとす
潮香る 北の浜辺に 寝転んで 浮き雲見つつ ポックリと逝く
快く 友た旅して 快く 友と別れる 小樽の街よ
裕次郎 記念館に 立ち入れば 靴やスーツは 新品のまま(石原裕次郎記念館)
すすき野の ネオンの花は またいつか 喪に服するば 花見もならず
スイスでは 百五十キロ トンネルが 青函トンネル 抜いてるようで(竜飛崎)
下北の 薬研温泉 かっぱの湯 残されている 温泉遺跡(奥薬研温泉)
地獄絵図 眺めた後の 極楽は 温泉冥利 恐山かな(恐山温泉)
遊郭の 面影残す 宿も消え 遠く去りゆく 雁の鳴き声(大鰐温泉ヤマニ遊仙館)
みぞれ降る 発荷峠の 曲り道 心に重し 冬の足音
竿灯の 祭りの賑わい 押し分けて 夜陰に逃れ 川反をゆく
盆帰り 苦痛に満ちた 旅路なり 汽車のデッキに 半日も立ち
梅雨晴れて 免停となり 足もがれ 友の誘いを 待つばかりかな
苔むせる 岩城の寺の 静むさに 蛇に驚く 悲鳴は消えず(龍門寺)
何処かに 人は旅立ち 過ぎるとも 知る人ぞ知る 有耶無耶の関
新緑の 大湯滝にも 憧れる 高松岳の 残雪眺め(川原毛大湯滝)
木の枝に 衣服ひっかけ 湯浴みする 滝湯の野湯は 値千金
啄木の 愛せし山の 側に来て 働く日あり 歌口ずさむ(姫神山)
束の間の 泡にも似たる 幸せを 噛みしめてみる 盛岡の夜
白鳥が 朝を伝えて 鳴いている 嬉し騒がし 盛岡の宿
家路行く 難所を越えて 安堵する 湯田の谷間の 雪の夕暮れ
みぞれ降る 湯田の峠の 曲り道 心に重し 冬の足音
降り立てば 夜霧冷たく 身にしみる 北上川に 移ろう月日(北上駅)
しみじみと 友の言葉 思い出し 一人訪ねる 北上の夜
気を転じ 男山へと 来て見れば 夕陽が渡る 初夏の和賀川
本堂に 狛犬あるも 面白き 神仏分離 無視した寺も(黒石寺)
京都なら 客は切れなし 黒石寺 住持自ら 落葉を集め
正法寺 吉野時代の 開創で 曹洞宗の 準本山に(正法寺)
いざ行かん まだ見ぬ果ての 山桜 古跡たどる 束稲山は
見上げれば 束稲山は 秋暮れて 西行法師の 春が待たるる
堂守の 話は尽きぬ 義経堂 北上川に 削られつつも
和服着た 貴婦人過ぎる 月見坂 振り向き上る 中尊寺かな
歩いても 歩く姿が 悲しいぞ 歴史を知らぬ 若き旅人
女性より 大きな愛を 求めんと 旅立つ先は み仏の海(浄土ヶ浜)
風流や 禿の宿の 露天風呂 柄杓の酒に 北斗七星(鬼首温泉)
デパートで 買い物をする 事もなし ただ見るだけの 水戸屋の風呂も(秋保温泉)
多賀城や 平城京を 追慕する 陸奥の昔は 大和の色に
天童の 城下は既に 消え失せて 水戸黄門も 素通りするか(天童温泉)
喜至楼に 大満足の ローマ風呂 脳裏を巡る 大正浪漫(瀬見温泉)
庄内の 古刹と言えば 善宝寺 湯野浜の湯で 精進落とし
信楽や 狸以外の 焼物に 夢心地する 元河原かな(肘折温泉)
秘湯とは 独り湯治の 滝川屋 再び泊り 湯に浸りたき(横向温泉)
清水屋や 道路に立てば 二階建て 線路に立ちて 三階と知る(湯野上温泉)
宿じまい 近づいた頃 訪ねたき 幕川温泉 二軒の宿に(幕川温泉)
骨折し 足を引きずる 山登り 霊山拝し 古城をめぐる(福島霊山)
より高く より大きく より深く わが人生の 旅果てしなく
入水の 鍾乳洞を 見物し 次は本命 あぶくま洞に
青春を 語らば尽きぬ 思いあり 何も語らず 旅を愛する
早乙女と 歌口ずさみ 行く路は 新しき旅 初めての旅(猪苗代湖)
泊まるべき 宿も定めず 旅ゆけば 心細くも 気ままなるかな
改まる 年の間に 飛び込んだ 亀屋の宿の 水の清らかさ(湯の花温泉)
あんかんに 母の温もり 噛みしめる 亀屋の宿に 朝は来たらず
卯の花に ふと思い出す 人もあり 梅雨の晴れ間の 白河の関
新しき 靴を求めて 旅ゆけば 服とは合わぬ 恥かしさかな
榛名山 登った後は 湖上より 仰ぎ眺める 二度の楽しみ(榛名湖)
春は良し 昔城下の 館林 ツツジの花の トンネルを行く
シトシトと 藤棚落ちる 雨の音 庭を眺めて 憩う下館
軽井沢 山の銀座と 成りし今 昔の宿場 知る人もなく
白樺に 桜の花を 見るなんて 長野独自の 景色なりけり
荒川や その水源は 朝日岳 関川村が 美観なるかな(信濃荒川)
本流の 水源近くに 道路あり 川に寄り添い 百キロ続く(庄川)
越中の 古き都を 訪ねれば 古城公園 桜満開(高岡城跡)
眺めれば 櫓の如き 小天守 日本最古と 聞きて驚く(丸岡城)
丸岡の 天守を共に 眺めたり 奥の細道の 旅あればこそ
偲ばれる 川の流れは 武蔵野の 林野をめぐり 歴史潤す(平林寺)
喜多院に 春日局 思い見る 江戸時代では 最大女傑
梅の香や 人の匂いが 邪魔をする 湯島神社の その多さかな
雲居より 水面を照らす 名月は 花も朧な 不忍池
上野山 桜の花の 散る如く 金も無くなる この花見かな
うららかな 春の陽射しに 誘われて 途中下車する 御茶ノ水駅
球場の 応援喧噪 聞こえない 後楽園の 庭の中には(小石川後楽園)
吉保の 栄華偲ばす 六義園 衰退を経て 名勝となる
戦死した 英霊のみを 祀るなら 文句言われぬ 靖国神社
神宮の 芝生の上に 寝転びて 空に描きし 明日への夢(明治神宮外苑)
期待して 花の盛りに 来て見れば ひと人ヒトの 菖蒲園かな
仇討を 美と思わざる 泉岳寺 人は桜に 人を見るなり
久々に 川崎大師 参拝す 浅草同様 門前は栄え
右左 景色異なる 北鎌を 行ったり来たり 一日は過ぎ
石段に アジサイの花 こぼれ落つ 明月院の 雨上りかな
香水の 香り漂う 木々の陰 明月院の 初夏のひと時
尼寺を 遠く偲ぶは 松ヶ岡 宗演・大拙 学者の住まい(東慶寺)
直義と 護良親王 土の中 いずれは帰る 敵も味方も(鎌倉宮)
朝焼けに 染まる山々 尾は遠く 妙高山は 海原の上
銀世界 志賀高原の 広大さ 我れを誘い 止むこともなし
手さぐりで 暗闇めぐる 戒壇に 光り求める 盲人を見ん(善光寺)
安曇野は 道祖神ばかりが 目に付いて 驚き多し 石仏の里
諏訪大社 上社下社 尚分かれ 本宮前宮 春宮秋宮
重い荷を 背負いて歩く 旅空に 不安は募り 気はまた重く
儚さは 時の早さと 朝の露 それでも恋し 日本の美観
新幹線 降りて広がる 温泉地 伊豆の熱海を 湯都と呼ぶ(熱海温泉)
岬にて 灯台あれば 脚のばす 石廊崎も その一つなり
海風は 乙姫誘い 松原は 天女を誘う 三保の松原
防風の 松の林を 過ぎ行けば 駿河なる海 富士を仰ぎて
茶の山に あてなく着くて さまよいし 出る満月 眩き星座(日本平)
清水なら 聞こえし人の 住む寺を 訪れ知りし 拝める人ぞ(松蔭寺)
切立ちし 久能の山に 権現社 駿河の海を 間近に眺め(東照宮)
見事なる 二層の社殿 目の前に 賤機山に 静けく建たん(静岡浅間神社)
初めての 弥生の旅は 登呂遺跡 世界最古の 水田もあり(登呂遺跡)
登呂の名は 幼き日より あこがれし 弥生の香り 千古に浮かぶ
絶壁に 無数の滝が 瀑布する 寸又峡の 新緑も良し
欲の欲 浸りて病んで 成る果ては 欲なき自由 ただ旅の中
休日は 海に遊んで 山歩き 空を飛んでは 自然と共に
満たされぬ 思いは一つ 旅をせぬ 心で歌う この月日かな
北陸の 名湯の中 忘れ得ぬ 芭蕉浴した 山中温泉
帰り来て 落着きはらう 暇はなし 旅路のあとの 熱き思い出
改めて 旅の身支度 整えん 人生半ば まだ見ぬ果てを
拘りを あまり気にせず 旅すれば 何を見るにも みな新鮮で
捨てさりぬ 欲望ばかり 多過ぎて 今だ辿れぬ 桂林の峰
究極美 異国にありて 憧れる エーゲの海辺 桂林の峰
寒村に パリの灯火 雪明かり 夢見る如し シャモニーの街
あっさりと 恋も仕事も 投げ捨てて 渡米する友 羨ましく見え
北欧を 旅することに 憧れて 過ぎ行くままに 老いは来にけり
さよならを 言わずに去るは 切なくも また会う時の 楽しみ思う
本を読む ゆとり戻りて 帰仙する 心晴れれば 空に雲なく
綿雲の 海を渡りて ただ涙 危篤を見舞う 不意の旅立ち
都より 山一つ越え 訪ねれば 変哲もなく 田畑続く
哀れなり 旅の途上で 命絶え 花咲かぬまま 露と消えるを
慕われて 思われるほど 辛くなる 自由気ままな 旅する身では
背広着て 訪ね旅する 国なのか アフリカしかり アジアもしかり
駆け巡る 旅路の夢は 唐の国 杜甫や李白と 酒を飲みたし
香ばしき 菊の香りに 包まれて 君と眺める 南山の峰
愛し合い 憎しみ合うが 恋ならば したくもないと 旅支度する
よく学び よく旅をして 世の中に 一石投ず 詩人もありき
古座川の 一枚岩の 巨岩には 名水流れ 道の駅あり(古座川)
宮川や 大台ケ原を 水源に 多量の雨が 伊勢へと旅す(宮川)
財宝を 熊野の宮に 納めても 芭蕉の如く 人にはなれず(熊野新宮大社)
願わくば はかなき夢を 捨て去りて 未知なる世界 さすらい行かん
花咲けば 心ときめく 旅なれど 春を待つ間の 思案も楽し
三井寺や 国宝・重文 数多あり 琵琶湖に響く 寺の鐘の音(園城寺)
澄み渡る 比叡の山の 清らかさ 不変不滅の 法の灯火(延暦寺)
束の間の 旅の喜び 過ぎ行きて 今宵世話なる 飯場は寒し
竹藪が 山一面に 繁殖し 手入れもされぬ 里山もあり
静観し 世を見つめては 旅にあり 理想をかかげ 清く貧しく
不自由な 家庭の重荷 背負えない 根が旅人で 思いやり欠け
帰らざる 旅を重ねる 流れ星 落ち着く先は やはり地球で
究極の 慈母の心を 内に秘め 吉祥天の くずれぬ艶美(浄瑠璃寺)
明代の 黄檗禅を そのままに 七堂伽藍 今も佇む(萬福寺)
丸と角 姿形は 異なれど 仏に通う 心等しく
水枯れし 化粧ノ井戸に 立ちながら 小野小町は 夢見る人よ(随心院)
騒がしい 車の音に 逆らいて 鳥のさえずり 枯葉散る音(勧修寺)
元旦の 平安京の 御所近く 大宮人の 声ぞ偲ばる
最大の 末社を有す 総本社 驚愕するは 千本鳥居(伏見稲荷大社)
稲荷山 四季折々に 移れども 千本鳥居 ただただ赤く(同上)
田畑から 伏見の城を 臨みては 昔の民は 何思いしと(伏見城)
東寺ほど 当時を残す 寺はなし 国宝重文 日本の宝
椿散る 枯山水の 苔の上 小鳥飛び交う 雪舟の庭(雪舟寺)
興正寺 大本山は 虚しいな 末寺ゼロでは ただの町寺
悲しきや 京都の寺が 流行る日に 廃れる寺の 栄華は見えず(本囶寺)
荘厳な 清水寺の 舞台には 圧倒されて 頭が下がる
泡沫に 浮かぶ命の 儚さや 清水寺に 沈む夕暮れ
陽は落ちて 舞台は遠く 霞建つ 清水山に かかる三日月
寂しさや 大仏殿に 仏なし 釣鐘だけが 一つ残りと(方広寺)
胸を突く 阿弥陀ヶ峰の 石段に 上りて高き 墓は建ちてあり(豊国廟)
投げ無しの 銭をはたいて 通い行く 恋しき芸妓 楽園の中(五条楽園)
仏像に 過ぎにし人の 顔浮かぶ 皆なつかしく 皆ありがたく(三十三間堂)
血で染めし 京都の街を 見下ろして 東の山に 眠る志士たち(霊山護国神社)
丸山の 空に飛び交う 恋言葉 我れは寂しく 向う禅寺(南禅寺)
回遊の 庭の極みや 修学院 自由に入れぬ 宮内庁の壁(修学院離宮庭園)
幾月か 芭蕉が逗留 この庵 瞬時とはいえ 我れも留まり(金福寺)
薄暗き 法堂の中 導かれ 一人聞き入る 天井の龍(相国寺)
優美なる 銀閣眺め 回遊し 更に歩くは 哲学の道(銀閣寺)
銀閣や 月日の重み 残しては 庭ととけあう 深みを増して
心地よき 風は書院に そよぐかな 瀑する水も 涼しさ加え(詩仙堂)
石庭の 深き姿は 分からねど 大きく生きる 心学べり(竜安寺)
麗しき 金の化粧も 夢の色 自ら映す 鏡なれければ(金閣寺)
金閣寺 眩いほどに 夕陽さす 世界に無比の その輝きよ
たそがれの 水面に映る 金閣寺 夢見て帰る 行楽の旅
無常なる 糺の森の 流れには 無常を知らぬ 鴨が戯れ
行く秋や 糺の森の 静かさよ ただ聞こえ来る せせらぎの音
仁和寺の 御室桜を 拝み見る 菊の御紋は 格式高く
宝ぞと 思えば守る 建物に 格差広がる 評価と答申(広隆寺)
柔らかき 身体の線に 漂える 弥勒菩薩の 慈悲の深さよ
飛ぶ鳥が 翼を広げ 行くような 千本釈迦堂 青き大空
初晴れの 釈迦堂閉じて 忍び足 見回すだけの 正月の朝
絶え間なく 鈴虫は鳴く 華厳寺に 虫の一声 寺を支えり
鈴虫の 声を聞かせて 五百円 セコイお寺の セコイお話し
走るより 止る時間が 長すぎる 嵐山への 路線バスかな
奥嵯峨に はかなく消えた 恋心 若いみそらを 散る花に見ん(祇王寺)
念仏寺 竹藪の道 上り行く 車道の前に 景観破れ
請来の 釈迦本尊に 恥じぬよう 嵯峨野で目立つ 大本堂で(清涼寺)
紅葉舞い かわらけの飛ぶ 高雄かな 錦雲渓は 三尾一かと(神護寺)
欲のない かわらげ遠く 空を行く お大師様の 導きにより
堂めぐる 伴う月は 見えぬとも 心の通う 友は伴う(高山寺)
釣鐘は 微妙に揺れる 秋風に 旅行く我れを 誘う槇尾(西明寺)
険しさに 疲れし我れに 報いてか 愛宕の山は 来た甲斐があり(愛宕神社)
桂川 カエデの枝に 挟まれて 小さく迫る 京の街並(月輪寺)
竹藪に 陽は遮られ 薄暗く 何処へ行くやら 寺の細道(光明寺)
ゆっくりと 雪の石段 上りつめ 見上げる堂宇 大師の影が(室生寺)
大和路は すんなり走る 道がなく 勘は鈍りて また迷走す
法華寺が 小寺に見えて くるほどに 奈良の寺には 大寺多し
依水園 奈良では稀有な 庭園よ 大仏殿を 借景にして
寒空に 辺りの樹木 閉じる時 四季桜のみ 花を咲かせて(万葉植物園)
微笑は いかなる人の 心にも 通い伝わる 仏の姿(中宮寺)
天平の 甍重なる 唐寺は 鑑真和上の 置き土産かな(唐招提寺)
薬師寺や 七堂伽藍 整いて 奈良の創建 思わせるかな
中国で 失われたる 仏法が 伝来されて 千五百年(法隆寺)
茅葺きの 茶室に積る 白雪を 沸かして融かす 茶の湯は楽し(慈光院)
茶の香り 仄かに口に 匂わせて 一人寛ぐ 夕暮れの寺
大仏は わが胸の内 知る如く 優しくも見え また厳しくも(飛鳥寺)
悠久の 時の流れに 身を置いて 心ゆくまで 飛鳥をめぐる
古の 酒船石が 飛鳥路に どんな酒かと 気になる眺め(酒船石遺跡)
早春 明日香の里の 夕暮れを 眼下に望む 甘樫丘
春霞 知識乏しき 寺に来て 火山の如く 湧く歴史かな(当麻寺)
八重桜 お寺の鐘に 寄り添いて 時節を告げる 今日の静かさ
欲が出て 三輪のお山も 登ろうと 行けば閉門 またいつの日か
夕暮れを 切なく思う ヤマザクラ 吉野の山に 月は満ちても
この世とは 思えぬ花の 豊かさを ありがたく見る み吉野の山
魂が 胡坐をかいて 動かない 吉野の山の 月夜の桜
ウグイスは 昔ながらの 声を出し 山並み遠く 響く朝焼け
朝靄に 中千本は 包まれて 幕開く如く 晴れてゆくなり
またいつか 吉野の花を 見るときは まだ見ぬ妻と 母の手を取り
大きくも 小さくもなし 志 友は誰しも 旅人と言う
華やかな 季節淋しく 過ぎてゆき 淋しさこそが 旅人の常
耳二つ 聞こゆる言葉 俗と聖 思うは一つ 旅の楽しみ
十津川の 流れに沿いて 蛇行する 銀河の光り 自然の流れ
峰続く 奈良の奥山 越えに越え 未知なる出湯 また訪ね行く(十津川温泉)
絶句する 橋杭岩を 見た後は 本州南端 潮岬へ(潮岬)
行きずりの 旅の女性に 声かけて 楽しむ酒も 一期一会に
冷たさが 骨身に染みる 季節とて 旅への想い 暖かきかな
全国に 名所旧跡 数あれど 優先順位 寺社と城郭
忘れてた 景色再び 思い出す 旅の写真が 有れば有るほど
高虎の 手による城は 面白き 虎伏城と 人の呼ぶのも(和歌山城)
哀れかな 人の知らない 多宝塔 価値高めれよ 阪和の人々(慈眼寺)
法灯は 砲煙弾雨に 消えるとも 再建されて 再び灯る(根来寺)
本宮は 古色蒼然 総本社 古道を歩く 熊野三山(熊野本宮大社)
参道に 激しくそそぐ 水の音 天の吐息は 苦にもならざり(熊野那智大社)
紀伊国の 熊野三山 那智の滝 垂直瀑布 滝も神なり
滾々と 神奈備の水 瀑布する 日本一の 那智の白滝
鳥取の 皆生温泉 弓ヶ浜 山陰一の 温泉地かな(皆生温泉)
美しき ホルンフェルスの 断崖に 波打寄せて 松萌えんとす(須佐)
広さでは 三名園を 凌駕する 栗林公園 別格の庭
九州に 数多の神社 あるけれど 宇佐神宮は 八幡本社
別府の湯 西の横綱 ここも湯都 源泉数は 日本一なり(別府温泉)
侍の 居座る城に 相応しく 熊本城は 見事なもので(熊本城)
いつまでも カメラを抱え 旅をする そんな姿に また憧れる
台地には 三百余基の 古墳あり その史跡には 花も咲くなり(西都原古墳群)
塩浸 龍馬も傷を 癒した湯 宿は消えても 湯船は残る(霧島温泉郷)
指宿に 来たなら一度 試したい 摺ヶ浜辺の 砂蒸し浴を(指宿温泉)
砂白き 珊瑚の浜に 戯れる 子供のせなに 降る雨楽し(与論島)
三十路から 人を愛する 気も薄れ 道草を食う 四・五年の旅
刻々と 日毎に変る 世の中に 愁いを抱き 旅支度せり
古の 人の心を 尋ねんと 詩歌に学び 旅を重ねて
灰色の 夜霧に光る 反射板 じっと見つめて 走る山道
年の瀬に 行く人もあり 年明けて 来る人もあり 人は旅人
旅に出て 景色に見とれ 空腹を 知らずに過ごす 時の幸せ(以降四・五十代作)
旅に生き 旅に死なんと 思う時 借金地獄 彷徨うばかり
旅すれば 思わぬことに めぐり会う 旅は心の 栄養源で
旅もせず 五年の月日 走馬灯 必ず帰る 芭蕉の世界
旅をせぬ 日々は淋しく 過ぎるとも 心にもゆる 高雄のもみじ
旅の酒 一人淋しく 飲むとても 見知らぬ人と 出会うは嬉し
旅人に ふと立ち帰る 待ち時間 会社に寄りて 尾山を詣ず
旅人に 成らんと思う 志 四十路行くとて 旅ままならず
旅人は 果てることなき 求道者か 天地自然に 真理を求め
旅終えて 早く家路に 帰りたき 家に籠れば 旅路が恋し
旅先が 終の棲家と 願いつつ いつも空振り 出直しばかり
旅費がまた 百名山が 最大で 節約しつつ 三百万に
山登り 惹かれる基準 高さより 裾野の広さ 山の豊かさ(大雪山)
山登り 酒より水が 恋しかり 合目のごとに 飲む沢の水
山登り 腿で登って 膝で降り 天気第一 元気そのうち
山登り 命落すな 金落せ 北海道の 百名山は
山好きの 殿下が踏んだ 木段を 霊山登拝の 我れも踏みしか(白山)
山の旅 百名山を 数えれば 二十一座で 今年は終える
山にのみ わが心の 拠り所 追い求めてる あと何年と
山行けば 役行者の 心地する 尾根をつたわり 頂きを飛び
予期もせぬ おふさ観音 バラ便り 分け行く路地に 可憐に咲きし
予期もせぬ 提灯祭の 多度大社 驚き見入る 盆の前の日
予期もせぬ 鵜飼見物 長良川 十八楼の 別館宿に
予期もせぬ 芭蕉の句碑に めぐり合う 真夏の海の 天橋立
予期もせぬ 旅館の女将 美しく とある商家の 娘と聞きし
わが命 自由気ままな 旅をして 花から花へ 浮かれて過ごす
わが命 空海さんに 預けおく 芭蕉さんも そこにいるから
わが旅は 一期一会の 酒の宴 楽しき時間 忘れ得ぬ日々
わが夢は 太閤真似た 花見なり 吉野に続き 醍醐寺もまた
わが体 一つしかなく 骨の数 二百個もあり それぞれ旅に
一人でも 幸せ多き 空間を 旅に求めて 五十路を越える
一人でも 泊めてくれる 民宿に 静かに眠る 嵯峨野の旅
一人では 泊るに遠き 志戸平 母の手を取り 入った風呂に(志戸平温泉)
一夜でも 福井の片町 楽しめり お市の方の 現身を見て
一夜明け 年新たなる 京の街 新たならざる 旅人ひとり
一生に 一度は渡海 佐渡島 金山跡や トキも見たいし
一年で 心に残る 思い出は 佐渡周遊と 富士登山かな
様々な 面影残る 吉水の 語りて尽きぬ 歴史の長さ(吉水神社)
様々な 旅を重ねて 思い出す 京都三尾の 秋の夕暮れ
様々な 旅人嵯峨野を 訪れて 何を思いて またここに来る
様々に 人は旅をし 生きている その果て如何に
何となく 自分の過去を 訪ね行く 夜の巷の 北上の街
何もかも 嫌に思える 世の中で 旅することが 今の楽しみ
何度でも 白馬岳は 登りたい 三山縦走 温泉めぐり
何時の日も 自分磨きを 心がけ 変る姿は 登山な中に
登山より 走行距離が 長かりし 百名山の その遠さかな
登山中 野垂れ死しても 悔いはなし 今朝見た山に 尽きる一日
登るほど 桜の花は 広がりて 小島の如く 蔵王堂かな(金峯山寺)
登るより 移動時間が 長きかな 金沢からの 富士山日帰り
その昔 流人の島と 聞く佐渡に 黄金の宝 花と咲き散る
その昔 五条の茶屋で 遊びたり 何とはなしに 通り行くかな
その昔 桂離宮の 写真帳 手にして外で 眺めてみたり
ふるさとの 家は捨てまじ 断ちきれぬ 十日遅れの 初詣かな
ふるさとの 香りも消えし 上野駅 瞼に浮かぶ 雪のあけぼの
ふるさとに 三途の川の 渓谷が 更に進むと 川原毛地獄
春はよし 花はなハナの 吉野山 こんな景色が 今にあるとは
春はよし 昔城下の 館林 つつじの花を 潜り行くとは(つつじが岡公園)
春の海 飲まざる人と 飲む人と 月を境に 別れね風雅
夢破れ 諸国を巡り この世知る 現なるかな 地位や名誉は
夢消えて 旅の道だけ 一つある 四十を越えて 踏み直す道
夢一つ 叶えて嬉し 富士登山 これから先は 山が恋人
海辺にも 自然恵み 湧きいづる 根室と津軽 海峡の幸(水無海浜温泉)
海峡で 別れた夕陽 また昇る 朝日に染まる 下風呂の海
海外を 広く旅して 行くよりも 日本国内 津々浦々を
休日は 日帰り千キロ 山の旅 百名山も まだ三合目
休日は 羽根を伸ばして 山登り 千キロを行く 日帰りもして
下町の 袋小路に 迷い込む 思いも寄らぬ 可憐な花が
下町の 袋小路の その奥に 入りて微笑む 可憐な乙女
こつこつと 積み重ねゆく 山の旅 衰えながら また頂きに
こつこつと 貯めた預金 ゼロとなり 旅に費やす 金限りなし
五十過ぎ 我が人生を 歩いてる 十七年の 設備屋放浪
五十過ぎ いつ死んでも いいように 覚悟を決める 毎日の旅
思い出が ウェブにもない 金田一 老いずに消えし 若返りの湯(金田一温泉)
思い出は 三万枚の 写真かな 移ろう旅の ひとコマの夢
富士登山 五合目までの 訪ねたが 見上げる先は 未踏の世界
富士山は 高きがゆえに 憧れて 美しきゆえ 惚れる女神で
昔より 心の中で 花盛る 一期一会の 旅の思い出
昔見た 景色は同じ 色とても 移り変るは 旅行く心
幾山を 登りてみれば 苦楽とも ずっすり残る 五十五の秋
幾万の 修験者たちの 汗の跡 奥駈道に 香る風格(山上ヶ岳)
見渡せば 乗鞍・御嶽 白山と 登りし山が 荒島岳に
見る物が 千年前と 変らない 葵まつりの 遠き足音
三山は 雄山白山 富士山で 五十五歳の 霊山登拝
三十年 居間を飾った ピッケルを 再び手にす 五十路の登山
新たなる 旅の目的 山登り 五十五歳で 登る初富士
新しき 登山靴など 買い求め 穂高に登る 意気込み高く
新年も 山ひとすじに 燃えてゆく 今年は長野で 仕事しようか
金掛かる スキーは一時 中断し 金の掛からぬ 登山に夢中
金が尽き 旅の安らぎ 遠ざかり また振り出しに 戻る春の日
貧乏と 共に倒れた わがスキー 絶望を超え 滑る日はいつ
貧しくも 旅に没頭 無我夢中 いずれは帰る あの世なくとも
年明けて 数日天気 恵まれる 京の初雪 融けて桂川
年二十 登り五年で 百名山 還暦前の 山の巡礼
四十五や これが節目の 旅の夢 行くか戻るか 悩みは続く
四年間 撮った写真が 五千枚 整理も楽し 雨の休日
知床で 初めて熊と 遭遇す 距離を保ちつ 様子窺う(羅臼岳)
叶うなら せめて欲したい 露天風呂 養老牛の からまつの湯(養老牛温泉)
狩場山 賀老の滝に 見惚れては 温泉宿で その記を残す(千走川温泉)
白神や まだかまだかと 杖を突く マテ山までの 道の遠さかな(白神岳)
二ツ森 白神岳に 駒ヶ岳 三山めぐり ブナ山を知る
盆休み 関東登山 二千キロ 睡魔を堪え 帰るみちのく
下山して 吸う一服の 旨さかな 登山中には 煙草は持たず
小雨降る 七時雨山 牛の群れ 鈴を鳴らせば 近寄る恐怖
鹿角より 日帰り千キロ 二千円 安くて遠い 会津駒ヶ岳
洞穴は 防空壕か 坑道か よくよく聞くと 氷室と言いし
十和田湖の 御前ヶ浜に 懐かしき 寒さ忘れて 白鳥を見る
津軽には 見たこともない 花が咲く じょぱりと言う 心の花が
哀れなり 客舎の明り 消えて行き 温湯温泉 閑散として
寂れ行く 温泉地にも 幸あれと 願いを込める 湯段温泉
初詣 津軽を去る前 また詣ず 七里ヶ浜の あじさい稲荷
災害 秘湯の宿は 紙一重 それにもめげず 二度も復活(温川温泉)
勤勉も 齢を過ぎては 仇となる 逆走をする 車の如くに(古牧温泉)
七年余 長途の旅を 中断し 実家の借金 払う空しさ
わらしとは 酒の供とは なり難く 独酌をする 宿と思えり(金田一温泉緑風荘)
雪質は 岩手で一の スキー場 温泉はまた 良き硫黄泉(休暇村網張温泉)
華やかな 夕べの宴 思う朝 空しく聞こゆ 鶯の声(鶯宿温泉)
風わたり 河鹿なくなり 湯の煙り 暑さも忘する 鴬宿の宿
お座敷は アフタースキーの 定番で 遊び尽くした 鴬の宿
大観や 御所湖の先に 岩手山 再び眺むる 時ぞ待たるる(繋温泉)
花火のみ 林の前に 鳴り響く 芸能まつりの 北上の夜
五時となり 真っ暗闇の 秋の空 淋しいだけの 里帰りかな
面白や 大沢峠の 下り坂 ブレーキアクセル 一度も踏まず
帰る度 道新たなる ふるさとに 戸惑い走る 羽後の山裾
霧深き 八幡平の 頂きに 立ちて淋しき 人も疎らで
刺巻で 眺める駒の 美しさ 走りながらも 写真に残す(秋田駒ヶ岳)
ハイマツに 包まれ聳ゆ 駒ヶ岳 登りて知りし 爆発の跡
秋田駒 馴れ合うよいに 連なりて 彼方に見ゆる 鳥海の山
憧れの 北上山地 室根山 台風通過 霊山登拝
里桜 松は枯れても 咲いている 西行戻し 松島の奥
義理果たし 心のしこり 除かれて 自由の翼 どこへ旅ゆく
赤城山 登山を終えて 神社など 参拝できぬ 強行哀れ
賑わえる 天神様の 細道を 人をかき分け めぐる正月(三芳野神社)
重文の 指定を受けた 競技場 五十七歳の 若さ日本一(代々木競技場)
到着が 横須賀線は 不正確 京急に変え 東京さ行く
吉祥寺 青春時代の 思い出が また花開く あちらことらに
随分と 行き交う人も 増えたこと 十年ぶりの 吉祥寺駅
井の頭 昔と同じ 歩幅では 辿り着けない 日曜の昼
黄八丈 シャツなどもあり いいかなと 値札を見れば 一桁違う(八丈島)
生涯に 一度の夢や 富士登山 登りて夢は また登ること
強風で 飛ばされそうな 富士の嶺 真言唱え お鉢をめぐる
満月と 九百キロの 帰郷かな 行く東名の 朝焼けの富士
日本一 絶えず変わるが 歩道橋 大分県から 静岡県に(三島大吊橋)
越後路は 三百キロの 縦断で 月に守られ ブレーク踏まず
出港に 十分前の カーフェリー 高速降りて 迷う新潟
残すべき 山の灯火 ランプかな 日帰りだけの 山は淋しき
高いけど 九百尺の 生ビール ちびちびと飲む 白馬山荘
絶景や 感極まりて 言葉なし 秋たけなわの 立山アルペン
立山の みくりが池の 湯にふれて 五十路半ばを 生き変るかな
ハイマツの 衣美し 柔肌の 乗鞍岳の 秋の微笑
遅い春 西穂の峰の 登山口 ウグイス鳴きて 咲く水芭蕉
六十座 その記念となる 奥穂高 遠く眺めて 三度目の秋
槍ヶ岳 北アルプスの 鋭鋒で 山人たちの 憧れの的
膨らんだ 夢の彼方に 槍ヶ岳 三大名峰 近付く登山
昨日見た 槍の姿と また違う 高さ増すほど 見ゆる鉾先
体力の 限りを尽くし 登りきる 生きる実感 剱岳にて
いざ行かん 早月尾根の 急登を 老いた体に 鞭を打ちつつ
このまんま 夢の続きを 見ていたい 旅に疲れた 月曜の朝
会社閉じ 出稼ぎ暮らし 楽しまん 名付け設備屋 放浪記とす
金沢の 夜の巷を 歩いても 知る美人なく 一年は過ぎ
寝台が まだ金沢から 上野行く 乗ってみたいと 手を振る私
墓もまた 百万石の 広さかな 苔生す小径 めぐる野田山
誰ひとり 訪ねることも ない清水 地震の後の 能登の名水
奥能登の か細き道を 分け入りて めぐり会えたり 古和の秀水
優しさに ふと惑わされる 時もあり 女は光りと 思う旅先
大野へは 三度目の旅 雲の上 荒島岳で 眺める城下
十八楼 芭蕉が名付けし この名前 不易なれよと 願いやまず(岐阜)
自転車の 一日走行 限界は ユンケル飲んで 百五十キロ
聞きなれぬ 寺の名前に 誘われて 車止めたり 尾張甚目寺
縁のない 知多の岬の 断崖に 身を投げんとす 負け組の先(知多半島)
おぼろげに 大嘗祭の 儀式見る テレビに映る 夢のひと時(伊勢神宮)
伊勢路には 百二十五の 神やあり しばし拝めと 天の声を聞く
神路には 歌聖俳聖 立ち寄れど 僧形ゆえの お参りできず
煎餅で 伊勢の名物 食べるかな 松坂牛に 海老と蛤
また消える 古くゆかしき 旅の宿 思い遠のく 二見浦かな
みそぼらし レストハウスを 取り壊し 庭木を植えよ 雑賀岬に
今宵よし かんぽの宿の 彦根では ご馳走三昧 琵琶湖夜景
月乃家に 泊まりてうれし 名月を 心行くまで 楽しむ今宵(大津)
ふざけては 友と比叡で 戯れた 若き日の旅 昨日に見えて(比叡山)
世は氷河 花の匂いは 変らざる 俗世を遁れ 古都を旅する
降る雪や 思えば流れ 二十年 京都奈良へと また訪ね行く
桜咲く 古都を訪ねる 楽しさは この世の旅の 極みと思う
御影石 野暮な墓石 一休寺 周り洋館 薪のふるさと
訪ねんと 思いながらも 三十年 城南宮の 道の遠さよ
目頭が 熱くなるなり 寂光院 小池に浮かぶ 過去の写し絵
拭っても 拭ってもまた 流れ出る 建礼門院 遠き哀しみ
尽きもせぬ 京都の旅の つれずれに 一度は歩く 哲学の道
天守閣 再建されての 二条城 その気運なく 令和に入りぬ(二条城)
落柿舎の 手前に田圃 ある限り 失望せずに ここにまた来る(嵯峨野)
田二枚 消え去りし日 落柿舎の 風雅は滅び 蕉風も消ゆ
今日もまた 死にそこないて 旅をせし 秋紅の 朝日の高雄
前を行く 人さえ見えない 吹雪では 止まれば凍死 退く勇気
亡き人も 背中に担い 旅したき 何処へ行くにも 守護されそうで
気が付けば 旅を愛して 生きている 仕事も各地 点々として
冬近し 夜ごとに開く 日本地図 まだ見ぬ西の 宮島の月
叶わない 夢と思いつ 夢に見る 旅から旅に 渡る不死鳥
褒められて 気を良くしつつ 夢に見る 仕事を離れ 旅に出でたし
独り身を 重ねるたびに 痛感す 所詮は一人 旅に生き死ぬ
時として 我れを忘れて 旅したき 子供心に 続く小径を
憂き世から 目覚めてみれば 山河あり テントの中で 子らも鼻歌
自然美 心安らぐ 齢かな 山川草木 みな愛おしく
淋しさに また淋しさを 重ねつつ それでも旅す 山河恋しく
紅灯に 心の旅を 重ねつつ 灯火揺らぐ 金の種尽き
明日の朝 生きているとは 思わない そんな気持ちで 今日を旅する
戻るにも 戻って行けない 旅の空 借金返し 鎖解かねば
十四年 過ぎて再び 自転車で ひと月ほどの 街道の旅
平城京 来る旅見る度 殿舎建つ 完全復元 生きているやら(平城京)
懐かしさ 胸にあふれて 来るけれど 一緒に旅した 友は何処か(吉野山)
遠出して 一日一生 繰り返す 未だ見ぬ果ての 旅に死すとも
雨の日も 時を惜しんで 登り行く 百名山の 旅のひと時
地図広げ まだ見ぬ山に 焦がれゆく 百名山の 美男美女たち
百名山 目標としつつ 賛意せず 甲信越に 片寄る山に
それぞれの 百名山を 考えて 入れ替える山 二十座ほどに
週末は 狂ったように 山行へ 百名山を 登り得るまで
還暦に 残り二年と 近付いて 百名山に 挑む山旅
晴れ渡る 大台ヶ原は 人の群れ 頂き近く 秘境は遠し
軽いのか 重いのかよく 分からない 華奢な女性が 背負うリュックは
青春に 再び帰る 心地する 五十路半ばの 山々の旅
若き日は 休みと言えば スキー場 今は登山に 恋し焦がれる
素人は 上りを嫌い 玄人は 下りを嫌う 山登りかな
右膝に 激痛はしり 暗くなる まだ六合目の 名山の旅
毎回が 危険伴う 登山でも 喜び多く リスク恐れず
終わりなき 巡礼の旅 登拝かな 百霊山を 新たに定め
霊山や これも巡礼 雪を踏む わが人生の 足跡刻み
恋人を 思うが如く 夢に見る 伯耆大山 山の姿よ
黄砂降る 京阪神を 素通りし 伯耆大山 一目散に
万国の 名所旧跡 見ることは 不可能だけど 日本は見たい
名山や 槍穂剱の 三岩場 富士立白 三霊山と
車から 眺める山に 一直線 藤原岳が 手招きをする
岡山や 渋滞続く 三箇日 神社仏閣 またいつの日か
宮島の 雪の景色に 憧れて 二年目の冬 またいつの日か
雲を踏み 稜線を行く 修験道 真の風雅 ここに極まり
エベレスト 登山費用が 五百万 ただ憧れの 山の頂
挫折のみ 繰り返したる 人生に 活力いずる 巡礼の旅
険しさを 乗り越えて見る 雪景色 伽藍の屋根に 射しこむ光り(雲辺寺)
眼下には 寺の伽藍と 散るもみじ 遍照閣が 新たに建ちて(岩屋寺)
菜の花や 七堂伽藍 本山寺 他に花なし 鐘の音もなし
亡き母を 供養するのも 我流なり 遺影に写る 鎌倉大仏(恩山寺)
残雪や 一番のりの 堂に立ち 唱える経の 音のみ聞こゆ(焼山寺)
城跡は 朽ちたるままで 四国一 今や昔の 二十五万石(徳島城跡)
白鳥や 春の日差しが 嫌なのか 飛ぶこともなく 池を離れず(丸亀)
古寺に 古き旅館に 檜風呂 冥土の旅の 土産は尽きず(本山寺)
無理無謀 四国巡礼 自転車記 心機一転 八十八ヶ所(善通寺)
咲く桜 真言浄土の 垣根越え 枝木を伸ばす 郷照寺かな
急ぎ旅 命の縮む 峠越え 昔山賊 今はトンネル(五色台)
峠越え 上る苦しみ 何処にか 楽して下る 自転車の旅(七子峠)
家々に 燃料電池と 太陽光 二つ合わせて 電柱消える
高知には 清流多く 存在す 香川の人は 何と見るかな(仁淀川)
国宝の 城に及ばぬ 高知城 桜の花は 国宝以上
最果ての 宿毛の街の 夜の店 一句吟じて 消える旅人(宿毛)
さびれ行く 宇和島の街 その城跡も 永久不滅の 霊場に学べ(宇和島城)
ヒメタケの 皮だけ厚い 四国路で 見せてやりたし 本場みちのく(祖谷温泉)
祖谷渓の 温泉らしき 湯に触れて 遍路の旅は 夢と結ばれる
長崎の いずれの寺の 山門も 海の夕日に 染まり行くなり
池田湖の 背後に一座 薩摩富士 最南端の ふるさとの富士
念願の 百名山を 完登し 好きな山々 再び登る
ささやかな イベント一つ 成し遂げる 百名山を 四年でゴール
旅に生き 旅に死なんと 志す 風流風雅 旅に尽きたり(以降六・七十代作)
旅に生き 詩歌と共に 古希をゆく 日本列島 見残しの旅
旅にのみ 残り少なき 人生の 灯りともすも 夢と消えるか
旅に出る 金のないまま 時は過ぎ ふと思い出す 地図を見る旅
旅人を 貫くだけの 命にて 楽しみ募る 年金暮らし
旅人は あこがれとする 人物を 自分のキャラで 演ずるものか
死んで行く 先は野となれ 山となれ 何で見栄はる 六十路の旅は
死んで行く 先の景色は 見えぬとも 今生きて見る 景色がすべて
死に時は 桜の花に 結伽して うとうと眠り 野垂れ死ぬたい
恋しても 本気になれぬ 我れがいる 旅より勝る 恋はあるかと
恋しても 長く生きても 浮かばれぬ 我が楽しみは 旅にありけり
その昔 温泉街の 湯瀬の駅 大滝のように 滅びるかれ(湯瀬温泉)
その昔 君を恋した ときめきが 脳裏に浮かぶ 稲住の宿
夢ありて 孤独と涙 尽きぬとも いつか超え行く 人は旅人
夢だけに 終わってしまう 人生も 善かれと思い 新雪を踏む
世に出でぬ 旅人もあり 金字塔 日本千ヶ寺 五百名山
世の中を 知らずに生まれ 死んで行く 空と言う名の 心の旅路
さよならを 云わずに去るは 切なくも また会うときの 楽しみ思う
失った 八年間を 取り戻す 満十年の 設備屋放浪
探せない 野湯もまたあり 小坂町 訪ね切れない 名所は数多(奥奥八九郎温泉)
横手市と つながっていた 温泉に 袖にされては 哀れむばかり(湯川温泉)
鴬宿の 温泉街に 刻まれた 思い出訪ね また歩み入る
廃墟から よみがえる湯や 山の神 金の流れは 極楽を生む(山の神温泉)
倒産で リセットされた 人生の 新たな望み 吟遊詩人
蘇る 大正ロマンの 木の匂い 軋む廊下に 君をながむる(温湯温泉佐藤旅館)
訪ねたき 名所旧跡 数あれど 数えて寂し 残りの命
結婚を する暇もなき 五十年 旅から帰り また旅に出る
岩沼屋 亭主変りて 炉は消えて 清風庵の 茶室は如何に(秋保温泉)
晴れすぎて 見渡す山も 霞けり 望む夢には 花はまだ咲かず
江戸の蔵 文人宿が 消失し 偲ぶ術なし 小原温泉(ホテルニュー鎌倉)
帽子には 旅の思い出 盛りだくさん 山の上でも ネオン街でも
泊まりたい 歴史の宿が 消えて行く 古き良き日の 城下町かな(上山温泉)
紅の 滑川の滝に 憧憬し 宿りとするは 福島屋かな(滑川温泉福島屋)
登山する 楽しみ二つ 山頂の 景色の眺め 下山後の風呂(姥湯温泉枡形屋)
颯爽と 旅する人に 憧れて 孤高のままに はや半世紀
船乗りに 腰を据えては 三年余 辞めて悔いなき 旅人となる
海に生き また山に生き 果てるかな 旅から旅の 四十余年
水色の タイルに満ちる 源田の湯 珊瑚の海を 思い出すかな(源田温泉森の宿)
只見川 その川沿いに 八湯あり 洲走の湯は 百年も湧く
降る雪や 夢は湧くなり 只見川 ローカル路線 湯めぐりの旅(早戸温泉つるの湯
未だ見ぬ 会津の秘境 沼沢湖 更なる先の 玉梨八町(玉梨八町温泉)
降る雪や 昭和の宿は 恋しかり 練炭炬燵で 女将と話す
残生や 毎日が旅 毎日が 風雅の心 月に寄り添う
いたずらに 歳を重ねる 人生に 一石投ずる 旅人もあり
塗りつぶす 旅の目標 一万点 寺院千ヶ所 山岳五百
マッハ3 悲痛な叫び 上げながら 大空遠く 過ぎる旅人
淋しさの 更なる上の 寂しさを 乗り越えて見る 風雅の世界
広島の 友に誘われ この次は 広島行くを 決意するなり
スーパーの 無い田舎では 暮らせない 全国各地を 仕事で旅し
感激の 涙にむせぶ ことばかり 旅の思い出 振り返るたび
頼られぬ 人間となって 死んでゆく それでも良いと 旅に夢中に
歯は入れ歯 耳は補聴器 目はレンズ 古き友との 熱き再会
ふるさとや 作家生活 消え失せて さらば秋田と また旅に出る
我れは今 何処にいるのか 見えぬほど 明日の知れない 旅にさすらう
今にして 思えば俺は 狂ってた 酒池肉林の 悦楽の旅
酒に酔い 花に見惚れて 旅路ゆく 古希前年の 幸せの価値
義務的に 訪ねる百選 数多あり 絵になる景色 十選ほどか
成長は 刺激と知識 一人旅 退屈せずに 歩け少年
名月や 雲の谷間に 見え隠れ 涙流して 見つめる湖畔(琵琶湖)
揺るぎなき 旅人の夢 叶えたり 霊山登拝に 千ヶ寺巡礼
あそこにも ここにも行った 旅自慢 その思い出は 人生の宝
地図を見て 景色眺めて 撮影す また振り返る 旅の楽しみ
年老いて 鉄道旅に 戻るかな 遺跡の側に テントを張りて
宵越し 銭は持たずに 半世紀 あと半世紀 乞食巡礼
どこまでも 自分と向き合い 旅をする 夢の中でも 嵐吹く日も
限りなく 未知なる世界 続くかな 更に前進 死ぬ間際まで
スポンサー あっての冒険 金次第 乞食になれず 地団駄を踏む
冒険者 スポンサーなしで 成り立たず 旅人の我れ 自分の金で
一人でも 退屈しない 人生を 旅人として 生きているのか
この道は 我れのみ歩む 旅の道 西行・芭蕉に 笠を合わせて
妖精に 誘われての ハイキング 世界遺産を 格別に見る(白谷雲水峡)
撰べない 絶景百選 百秘湯 折々変わる その姿では
宮古島 最後の旅と 心得て 選んでみたり 三百景に(平安名崎)
古希迎え 命あるなら 野宿せん 日本列島 見残しの旅
もし我が 生まれ変わりを 望むなら 芭蕉の旅を 更に続けむ(辞世の歌)