旅の短句

旅の短句 306句

旅の日々 芭蕉の空気 初日の出(以降二・三十代作)

旅に出て また眺めたき 女郎花(おみなえし)

旅こそが わが命なり 花と月

旅心 かき立てられる 花便り

山登り 何より旨し 握り飯

山中や 芭蕉の空気 菊の湯に(山中温泉)

山桜 花はなハナの 吉野山

山城(やましろ)や 五重塔も 雪化粧(海住山寺)

名月に ひと花添えん 五大堂

名水の 誉れも高き 御茶ノ水

名石や 清澄凌ぐ 庭はなし(清澄庭園)

名に聞きし 龍田の紅葉 名ばかりに

秋風や 風雅に乗らん ひとり旅

秋風や 芭蕉も知らぬ 立石寺

秋も良し 日光結構 いろは坂

秋去りて 淋しき夜の 諏訪湖かな

湯豆腐の 湯気まで高き 南禅寺

湯豆腐を 味わうよりも 今日の酒

湯滝にも 錦の帯や 染め尽くす(川原毛大湯滝)

湯は宝 宿は大和屋 花まつり(赤湯温泉)

初雪を テレビで見るや 与論(よろん)(じま)

初雪や 身も引き締まる 峠道

初夢や 美女と二人で 富士登山

水を張る 田んぼの上に 那須の山

水もなき 堀底探る 落葉かな

水仙の 花は気付かぬ 吉野山

増上寺 東京タワー 塔代わり

増上寺 堂宇は上野 勝りけり

涼しさや 上野の森の ところてん(無極亭)

涼しさや やぐらの外は 蝉しぐれ(浄智寺)

観光の 線香匂う 梅蔭寺

観光の 面影薄し 臨済寺

風流や 十和田湖畔で 芋煮会

風流や 月見も遠し 都市明かり

六義園 庭そのものが 絵画的

六義援 心は江戸の 風雅かな

子供らも 後楽園は 楽しそう(小石川後楽園)

子供らの 遊び場兼ねた 境内で(目黒不動尊)

寅さんと 馴染が深い 経題寺

寅さんや 架空の人も 徒然に

梅匂う 湯島の春の 訪れか(湯島神社)

梅の花 愛で歌いし 久能山(久能山東照宮)

赤門や 今は学徒の 夢の門

赤坂に 静かな空気 日枝神社

朝市や 温泉神社に 供え鯛(あつみ温泉)

朝光り 駿河を呑みて 鉄舟寺

老杉(ろうさん)に 千古の栄え 尋ねたり(幻想の森)

老木や 日々染まりゆく 秋の色(浅間神社)

行く春や 芭蕉浴さぬ ゆさやの湯(鳴子温泉)

行く秋や 芭蕉の涙 いしぶみに(多賀城壺碑)

雪もなき 元旦淋し 雁の里(平安の風わたる公園)

雪の夜や 精進料理 般若湯(高野山)

大垣に 結ぶ旅路や 散る桜(大垣城)

大津路や 芭蕉の空気 名残り雪(義仲寺)

天童や 人間将棋に 湯のけむり(天童温泉)

天守台 上りて遠し 江戸の華(二条城)

木枯らしや ビルの林の 時計台

降る雪や ビルの谷間の 時計台

小さくも ビルの谷間の 憩いの場(清水谷公園)

漂泊の 思い棚引く 無始の空

八甲田 火事は見まごう 草紅葉

青春は 十和田の夏に 尽きにけり

身勝手に 旅を重ねる おらが春

世に出でて 弾みをつけん 旅ガラス

ウミネコや 無数に巣くう 蕪島に

ツツジ咲く 季節となりし 久保田城

五月雨に 残雪融けし 須川岳

霧の中 登山者一人 淋しけり

稲実る 平和が続く 秋景色

よく聞きし あまり語らず 旅人は

草庵に 笛の音色と 梅の花

星空を 眺めて飽きぬ 秋の山

角館 酔いも醒めるや 山ぶつけ

貴婦人の 菊の香りや 横手城

杉並木 古人も通いし 月見坂(中尊寺)

宮城野の 雀踊りを 見る雲雀(ひばり)

流離(さすら)えど いずれ大河に 流れ行く

暑き日や 芭蕉も知らぬ 温海の湯

松茸や 青松館の 月を待つ(東根温泉)

鷹山を 湯船で偲ぶ 江戸の華(赤湯温泉)

行く春や 相馬()()(おい) 勇壮に

日光の 威厳は遠し 蝉しぐれ

月見んと 鹿島へと飛ぶ 秋の雁

凧揚げや 柴又の土手 フーテン(しゃ)(葛飾柴又)

吉祥寺 ポプラ並木が 庶民的

わが庭に せめて欲する 庭もあり(古河庭園)

寛永寺 寺域は芝に 勝りけり

広過ぎる 博物館は 日をかけて(国立博物館)

本を見て 知るより早し 科学館(科学博物館)

不忍の 池の賑わい 渡り鳥

アメ横の 人の流れは 御徒町

植物園 入口探し ひと苦労(白山植物園)

聖堂や 学生街に 面影が

浅草や 詣でて遊ぶ 帰り道

インドでも 見かけぬ堂宇 本願寺(築地本願寺)

仏心の 希薄な我れは 外観を(東本願寺)

神田なら 何だかんだと 明神で

隅田川 今も昔も 隅田川

芝離宮 ビルの上より 俯瞰する

泉岳寺 赤穂参りの 急ぎ足

新宿の 歌舞伎町には 風情なし

静かさや 明治の森の 池のそば(明治新宮)

練馬城 訪ねてみれば 豊島園

武蔵野の 面影残す 目黒森(自然教育園)

鎌倉は 九月半ばも 蝉の声

坐禅する 夢窓の(いわや) 涼しかり(瑞泉寺)

覗き見る 土牢に淋し キリギリス(鎌倉宮)

陽は照れど 吹く風寒し 霧ヶ峰

浅間山 裾野に合わぬ 軽井沢

松原に 食い入り寄せる 家の波(三保の松原)

打ち寄せる 潮風寒し 三保の浜

羽衣と 飛んで行きたし 冬の三保

下宿部屋 恋しく思う 野宿かな(日本平)

街の()を 頼りに下る 遠い道

富士の堂 駿河の池に 日は暮れん(龍華寺)

しみじみと 聞きし昔の 寺のこと

弥生期の 姿を残す 登呂遺跡

これもまた 古き良き日の 遺跡なり

今もなお 堀が駿府を 囲まなん(駿府城跡)

川止めや 遊女と遊ぶ 金も無し

空腹に かば焼き匂う 熱田前(熱田神宮門前)

すくわれぬ 金魚弥富に 里帰り

追いかける 芭蕉の旅に 花と月

俳人と 武士と撫子 義仲寺に

長旅の 始めは京の 寺めぐり

降る雪や 鳳凰堂に 鷺が舞う(平等院)

ずっすりと 重い思い出 京の雪(清水寺)

来る年も 舞台を照らせ 初日の出

美の中に 入れて余すは 京美人

京女 東男と 不釣り合い

新年や 夢も新たな 一人旅

降る雪や 慎ましやかな 京の街

元旦や ひっそり寂し 建仁寺

襖絵の 虎より怖い ストーブ火

浅くのみ 積れる雪や 金閣寺

高々と 凧舞い上がる 桂川

燃え尽きた 命の煙り (あだし)()

竹林に こぼれ陽赤し 嵯峨野かな

京の雪 古寺を訪ね 風雅知る(神護寺)

かわらけの 飛び行く先は 冬の色

欲のない かわらけ遠く 空を行く

たまげたり 女人高野の 杉木立(室生寺)

若葉拭く 芭蕉の雫 また哀れ(唐招提寺)

七大寺 微かに残る 古都奈良に

龍田川 瞼に浮かぶ 夢紅葉(もみじ)

花霞 人目千本 吉野山

吉野には 二度は来いよと 芭蕉言う

移り行き 奥千本が 花盛り

ウグイスの 囀り勝る 吉野山

三度見る 吉野の山の 山桜

降る雪や 仏の慈悲を 暖とする

根来寺は 僧兵の城 散る紅葉

十津川の 銀河の流れ 山霞

サザンカや 誰飾したる 首の塚(歓心寺)

洋館に 遊び心の 風見鶏(旧トーマス邸)

備後にも 雪が降るなり 五重塔(明王院)

瀬戸海は 船の重油で 海黒く

城山や 煙り立つ島 陽が沈む(錦江湾)

南海の 青い海原 途中まで(インドネシア)

秋風や 鳥肌が立つ 剣ヶ峰(以降四・五十代作)

秋雨に 寂れた風情 鳳来寺

秋晴れや 鈴鹿の山に 朝の月

秋の富士 精根尽きし ピストンは

秋の空 男体山が 剣で突く

花追いの 最後の旅は 松前で

花雲に 聳える山が 蔵王堂(吉野山)

花盛る (ひろ)川寺(かわでら)は 西(さい)(ぎょう)()

花咲きて 春やととのう 曼荼羅寺

旅に病み まだ生きている 痩せ蛙

旅すれば 隣り合わせの 信濃そば

旅行けば 京都の街は 大晦日

白波に 富士の根雪を 重ね観る

白鳳の 仏に尻を 叩かれし(蟹満寺)

白山に 芭蕉の渡し 麦畑

春来たと 思えば雪の 五所川原

春も過ぎ 消化不良の 佐渡の旅

春の日や 心はいつも 旅気分

月夜道 狸の踊り (しょう)(じょう)()

月と陽が 向かい合わせの 手取川

家族なし 家は(むぐら)の 旅暮らし

週ごとに 山と向き合い 三年目

火遊びに 懲りて旅寝の 歌枕

足のタコ 剥いで身支度 旅前夜

カニ族と 言う人もなし 夏の旅

一見の 観光客は 土産買い

無加川に 聳ゆる宿に 春めぐる(温根湯温泉)

淋しくも 旅が命で 一人行く

くしゃみして 秋を見るなり 屈斜路湖

目に浮かぶ 豊平川の 雪見酒(小金湯温泉)

狩場山 賀老渓谷 紅葉狩り

濁川 鄙びの宿に 渡り鳥(濁川温泉)

名月や 夜景と競う 十勝かな(十勝幕別温泉)

海猫に 霧笛汽笛の 三重奏(平磯温泉銀鱗荘)

丘一面 つつじの花に 岩の山(恵山)

土方の 夢は破れ 散る紅葉(川汲温泉)

つぼの湯や 五色に芽吹く 若葉かな(北湯沢温泉)

本山を 遠く離れて 蓮華咲く(実行寺)

隣室の 声が気になる 一人旅

早朝の (はっ)()峠は 雪景色

雨音や トタンと瓦の 競いあい

落人(おちうど)の 哀れが浮かぶ 夏油の湯

寝なければ 明日が見えぬ 蝉の声

夏山は こんにちわ疲れ ギャルの声(鳥海山)

清川の 芭蕉の句碑に 彼岸花

五月雨も 人それぞれの 最上川

山寺に 古き宿あり 名残り雪(立石寺)

ミイラ撮り ミイラに見られ カメラ置く(海向寺)

ふたまたぎ 蔵王月山 朝日岳

情熱に 自ら燃えて 朽ちる秋

新潟は 知る人もなく 日が暮れる

(きん)は消え 白き山並み 佐渡島

佐渡の旅 二泊三日は 物足りず

マイカーで 佐渡一周が 九万円

塩の道 あれが(はく)()か 五月晴れ

立山は 老いにたて突く 山登り

室堂に 一番高き 湯の煙り(室堂平)

夜明け前 大雪渓に 音ひとつ(白馬岳)

槍の上 満足感に 御来光(槍ヶ岳)

夕暮れの 稲田美し 千枚田

片町や 夜は程々 愛遠し

湯島にも 久々の雨 梅香る

若き日の オーディオ狂い 秋葉原

不相応 足は遠のく 銀座かな

報国寺 竹藪揺する 春の風

大仏の 鼻に止まれよ 赤とんぼ(鎌倉)

富士登山 携帯ボンベ 欠かせない

吐く息も 白くなりける 聖岳

御三家の 東照宮は マイナーに(名古屋東照宮)

川渡る 芭蕉が浮かぶ 手取川

北陸路 他力本願 風強く

西の空 雪の白山 手を合わす

佐賀ナンバー 何処へ行くやら 雪の飛騨

文月の 竹美しき 四日市

ここは三重 仙台牛が 売られてる

驚いて やがて哀れむ 白馬かな(伊勢神宮)

初日の出 初詣で後の 二見浦

伊吹山 錦に雪の 二重層

年の瀬や 百が駄目なら 二・三百(武奈ヶ岳)

薄雲に 出たり消えたり 瀬田の月

宅地化の 波打ち寄せる 一休寺

野暮ったい ()(せき)連なる 一休寺

醍醐寺や 桜の花で ハイポーズ

床落ちる あらぬ心配 人の波(清水寺)

観光の 光りに融ける 京の雪

湯豆腐は 箸付けかねる 京料理

京娘 年に一度の 日本髪

瓢箪の 灯り懐かし 京の夜

失って 知るや夏の 金閣寺

めぐる堂 御室桜の 花吹雪(仁和寺)

嵯峨野路や 竹は陽射しを 独り占め

鳥獣戯画(ぎが) もみじ色々 高山寺

人慣れし 鹿らしからぬ 奈良の鹿

若草や 鹿も神仏 奈良ならば

鐘の音や 明治と奈良の 聞き比べ(東大寺)

思い立つ 時は冬なり 法隆寺

手入れせぬ 木々も朧な 春景色(当麻寺)

散る花を 西行法師と 惜しみけり(弘川寺)

陽炎や 二十歳の旅は 遠い空

大山や 馬鹿が立ち入る 剣ヶ峰

広島に 雪舞い落ちて 五月晴れ

鐘一つ 鳴らして過ぎん 春遍路

宗教は 心の薬 南無アーメン(香園寺)

鈴の音や 同行二人 菜の畑

菜の花や 禁酒禁煙 遍路みち(本山寺)

桜より 菜の花早し 遍路みち

女体山 満願記念 初登山(大窪寺)

吐く息も 白くなりけり サラマンカ(以降メキシコにて詠む十二句)

メキシコで 初めて拝む 赤い月

メキシコで 秋雨とミイラ 見るなどと

メキシコで 初めて見るや 白い鳩

メキシコや 月と太陽 両の手に

メキシコや 握手拍手の 忘年会

メキシコも 名月なりけり 雲の間に

メキシコの 雨音聞くと ロックかな

行く年や カリブの海に 沈み行く

サボテンの 香りなつかし テキーラよ

テキーラを 呑めば楽しく 敵要らず

笑顔には 笑顔で応える 世界の和

道遠き 三百名山 雪は降る(以降六・七十代作)

残り火に 花咲かせんと 旅に立つ

風に聞く 旅行く人の 四季の歌

湯野川や 青葉若葉の 露天風呂(湯野川温泉)

夏の陣 湯あればこその 歴史かな(薬師温泉)

奥薬研 河童と友に 入りけり(奥薬研温泉)

珍しい 夫婦もありき 冬登山

誕生日 忘れて過ぎる 旅の日々

山旅に 学歴社会 無縁なり

旅人や 一人生きるも 限界が

気にされず 消え行く我れも 旅人で

よれよれの シャツも絵になる 夏の山

幸運が 湯となりいずる (えんじゅ)かな(小原温泉)

古宿や 傘福に飾る 雅かな(辰ヶ湯温泉)

幕川や 春の初めは はしご泊(幕川温泉)

埋もれ行く 文化の宿に 散るさくら(熱塩温泉)

目に浮かぶ 天栄山の 雪見酒(天栄温泉)

紅白の 湯には珍し 見ず芭蕉(赤湯温泉)

珍しや 山のいで湯の ひめさゆり(日中温泉)

進化した 根津神社の ツツジかな

三世代 旅館の女将 顔合わす(あわら温泉)

碧空に 若草山も 雪化粧

紅桜 高縄山に かかる月

阿弥陀仏 一光三尊 伊予の月

石鎚の 弥生の雨も また奇なり

コロナ禍で バーチャルな旅 続くかな

老いてなお 心はいつも 旅の中

残されし 命燃え行く 花遍路